小林泰三「海を見る人」

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小林泰三「海を見る人」は、第十回SFマガジン読者賞国内部門を受賞した珠玉の短編集です。特にオススメなのが小林泰三「海を見る人」に収録されている「独裁者の掟」です。

独裁者の掟は、見事なトリックで最後に驚く事間違いなしの名作だと言えます。舞台は巨大な宇宙船二隻です。両者はマイクロブラックホールエンジンを用いて宇宙航行をしています。マイクロブラックホールエンジンは、質量を入れないと熱量が上がるという不思議な構造を持っています。両陣営はそれ故に、時に敵の船を破壊して持ち帰る程の、壮絶な物資の奪い合いを繰り返し、戦争寸前の状態です。主人公はカリヤという幼い少女で、彼女を巡り、両陣営は一悶着を起こします。そこでカリヤは胸に思いを秘めたのでした。

時と場所はやや変わり、マイクロブラックホールエンジンを視認できる位置の独裁者。彼は敵も味方も、目的のためなら殺してしまうという精神の持ち主でした。彼がそこまでしてマイクロブラックホールエンジンをいじろうとするのはなぜなのか。カリヤは宇宙航行をする世界で何を思うのか。物資が無く、死体をもエンジンに焚べられる世界はどんなものなのか。そして、物語はどのような結末を迎えるのか。ある意味でバッドエンド、ある意味でハッピーエンドである点も小林泰三「海を見る人」の魅力の一つです。

ハードSF作家の小林泰三氏が綴り、大学教授とも意見を交わして練られたマイクロブラックホールエンジンの設定と、心理描写の交錯が見事であるとしか言えない名作です。海外のハードで緻密なSFが好きな方、少女の切ない真理を垣間見たい方、独裁者になってみたいという方にもオススメなのが小林泰三「海を見る人」なのです。